เข้าสู่ระบบ「わたしも友だちも、そういう
「そうなんですね」
「うん。でも、明後日行くお店はちょっとオシャレなお店を選んでおくわね。せっかく二人でお食事するんだし」
せっかくのデートなんだし……と言いかけて、言い方を変えた。わたしはそのつもりでも、彼にはそのつもりがないかもしれないから。
「――さて、と。今日のお昼は上沢先生と会食だったね。その他に予定は何かある?」
「いえ、午前は特に何も入っておりませんね。午後からは、昨日に引き続き取材が十件ほど入っておりますが」
「分かった。じゃあ、今日の仕事を始める前に……」
わたしはパソコンを起動させた。IDとパスワードを打ち込み、検索エンジンを開く。
「……社長、これからパソコンで何を?」
「ちょっとエゴサーチをね」
自分の会社の評判を知っておくことも、経営者の大事な仕事である。特にわたしは昨日社長として就任会見を開いたばかりなので、世間からどのくらい注目されているのか知っておきたい。
「そういえば社長、ご存じでした? この会社で女性が社長になったの、佑香社長が初めてなんですよ。……まあ、城ケ崎家の方ならご存じですよね。失礼しました」
「らしいね。だからわたし、余計に世間から注目されてると思うの」
――デザートまでキレイに食べてしまってから、わたしたちはレストランを後にした。元カレとの再会という予想外のハプニングもあり、わたしはどうなることかとヒヤヒヤもしたけれど、それも野島さんのおかげでどうにか切り抜けることができてよかった。「――社長、今日はごちそうさまでした」 野島さんがわたしに頭を下げる。支払いはもちろん、わたしのクレジットカードで決済した。彼は自分の食べた分くらいは払いたがっていたけれど、誘ったのはわたしだったので支払いも全額わたしが持つのが筋だろう。「ううん、いいのよこれくらい。わたしもあなたに助けてもらったし、そのお礼だと思って」「……ああ、遠藤さんの件ですか。あれは別に、社長に恩を売ろうと思ってしたことではないんですけど」「分かってるよ。でも、あの時はホントに助かったし、わたしに『被害者なんだから罪悪感を抱く必要はない』って言ってくれたでしょ? あれ、ホントに嬉しかったから。ホントに感謝してるのよ」「そう……ですか」「うん。じゃあ帰りましょう。二日連続だけど、家までよろしくお願いします」 ――家までは、野島さんがクルマで送ってくれた。何だかんだ言って、わたしを自分のクルマに乗せるのが彼は好きらしい。ということは、彼には少なくとも一緒にドライブをするような恋人はいないということだろう。「――ねえ野島さん、今日は楽しかった?」 運転席の彼へ、助手席のわたしは初めてのデートの感想を訊ねた。 彼もまさか、あんな事態になるとは思っていなかっただろう。でも、彼なりにわたしを助けてくれたし、慰めてもくれた。お料理の味も言うことなかったし、あの事件を除いても楽しんでもらえていたらいいのだけれど……。「はい、楽しいお食事になりました。料理も美味しかったですし、お店の雰囲気もよかったですね。クルマで来なければ、僕も一緒にワインを頂けたんですが……。それだけが少し残念です」「野島さんも、お酒飲むのね。あれ? でも昨日は高森さんに『下戸だ』って言ってなかった?」 そういえば、彼は昨日、お酒を勧められた時にそんなことを言っていたような気がするのだけれど。「ええ、確かにそう言いました。ですが、あれはお断りする口実です。実はそんなに強くはないですが、嗜む程度には飲めないこともないんです」「そっか……。じゃあ、次はあなたのクルマ
「――ふぅ。わたし、ワインを飲んだら何か甘いものも欲しくなっちゃった。デザートも頼んじゃおうかな。野島さんはどうする?」 メインディッシュまで綺麗に平らげ、美味しい赤ワインも堪能したところで、わたしは再びメニュー表を開く。お酒もほどほどに飲めるけれど、実は甘いものも好きなのだ。「僕はもうお腹いっぱいなのでお構いなく。どうぞ、社長だけ召し上がって下さい」「そう? 分かった。――すみません、デザートのオーダーいいですか?」 わたしはテーブルの上の呼び鈴を鳴らし、さっきの給仕係の男性を呼んだ。「はい、伺います」「じゃあ……洋梨のタルトと白桃のソルベ、あとショコラアイスを下さい」「かしこまりました」 わたしのオーダーを書き留め、彼はまた厨房へ下がっていった。「――社長は甘いものもお好きなんですね。実は僕もなんですが、今日は本当に満腹で入らなくて」「そうなの? ……あ、そっか。ご実家は喫茶店なんだもんね」 ご実家が喫茶店だからといって、みんながみんなそうではないと思うけれど。彼の場合は何となくそうなんじゃないかという気がした。「はい。母がお店で出しているデザート系のメニューを作ってまして。若い頃からスイーツ作りが趣味だったそうです。それで、僕たち姉弟も母が作ってくれたおやつを食べて育ってきたんです」「へぇー、そうなんだ。ステキなお母さまね。一度、わたしもお店に行ってもいい?」 彼の実家が喫茶店だと分かった時から、一度行ってみたいと思っていたのだ。ただ突撃訪問では彼のご家族に気を遣わせてしまいそうなので、何かキッカケが欲しかった。 ……まあ、普通の飲食店なので、客としてしれっと行けばいいだけの話だとは思うのだけれど。「……えっ? 僕の実家に……ですか?」「うん。あなたのご両親とか、お兄さまとお姉さまにもお会いしてみたい。あと、お店のメニューにチョコレートパフェってある?」「ええ、ありますよ。チョコレートパフェだけじゃなくてフルーツパフェも。あと、ケーキとかプリンやゼリーも母の手作りです」「へぇ、どれも美味しそうね。食べてみたいなぁ。……で、さっきの話だけど、どう?」 そんな話をしている間に、オーダーしていたデザート類が運ばれてきた。「ありがとうございます。いただきます」 デザートを美味しく頂きながら、わたしは彼の返事を待つことにした
「……あの、社長。ちょっと不躾な質問なんですが」「ん? なぁに?」 何だか言いづらそうに切り出す野島さんに、わたしは首を傾げた。多分、このタイミングで飛び出す質問は真也に関することだろうけれど。「先ほど、遠藤さんとはあまりいいお別れのしかたをしなかったとおっしゃってましたけど。社長がフラれたんですか?」「ううん、フったのはわたしの方。でも、あんまり後味はよくなかったなぁ」 わたしは彼に、どうして真也と別れることになったのかを話した。 一年近く付き合っていたのだから、それなりにアイツに対して情も移っていたと思う。それが恋愛感情だったのかどうかは今でも分からない。 でもあの男は、そんなわたしに甘えて他の女の子にも手を出していたらしい。わたしはまんまとアイツに騙されていたんだと、どうして一年も気づかずにいたんだろう? それが何だか腹立たしい。 それでも、ずっと騙されたフリを続けていれば、彼のプライドを傷付けてまで別れることもなかったんじゃないだろうか……。「……社長、それは完全に彼の方が悪いでしょう。あなたが罪悪感を感じる必要はどこにもないんじゃないでしょうか」「……え?」「社長はずっと騙されていたんですよね? だったら被害者のはずでしょう。被害者が気まずい思いを
「――あれ? 佑香じゃんか。こんなところで会うなんて奇遇だな」 席へ案内されている途中でわたしたちのテーブルの傍を通りかかった真也が、彼女(?)が一緒なのにもかかわらず元カノのわたしに声をかけてきた。何を考えてるんだ、コイツは。「ああ……うん。久しぶりだね、真也」「もう三年ぶりか……いや、もっとかな。で、その男は誰? お前の新しい彼氏か?」 今カノの存在をすっかり忘れているのか、それとも考えないようにしているのか、ただの友人と再会したかのようにズケズケと話しかけてくるこの男に、わたしはだんだんイライラしてきた。 ――と、その時。「失礼ですが、あなたがこちらにいる佑香社長と以前交際していた遠藤さんで間違いないですか?」 わたしが何か言い出す前に、あくまで冷静に、野島さんがさり気なく口を挟んだ。表面上は爽やかな笑みを浮かべているけれど、内心ではきっと笑っていないだろう。「そう……ですけど」「ああ、失礼。自己紹介がまだでしたね。僕は佑香社長の第一秘書で、野島忍といいます」「佑香……社長?」 わたしを「社長」と呼んだ彼に、真也は目を見開いた。 二人は同じようなスーツ姿だけれど(色こそ違えど)、スッキリと洗練された着こなしをしている野島さんに比べたら、真也はどちらかといえば「スーツに着られている」という感じが否めない。ハッキリ言って似合っていない。ちょっとだらしない体形のせいだろうか?「ご存じなかったんですか? 佑香さんは今月から、引退されたお父さまに代わって城ケ崎商事の社長に就任されたんですよ。新聞にもネットニュースにも載りましたし、テレビのニュースで
「――いらっしゃいませ」 わたしたちは夕方六時を少し過ぎて、お店に到着した。週末のためと、帰宅ラッシュも重なって思っていたより道が混んでいたのだ。「こんばんは。十八時に二名で予約している城ケ崎ですが」「城ケ崎様でございますね。お待ちしておりました。席までご案内致します。どうぞ」 お店の女性支配人に出迎えられ、名前を言うと窓際の二人用のテーブル席へと案内された。 その後ホール係の男性がグラスのミネラルウォーターを持って来てくれて、わたしたちはそれぞれにメニュー表を手渡される。コースメニューも三つほど載っているけれど、単品でもオーダーできるようだ。「……社長、こういうお店ではやっぱりコース料理をオーダーする方がいいんでしょうか?」「ここはアラカルトでもオーダーできるみたいよ。だから食べたいもの、何でも遠慮せずに頼んで。支払うのはわたしなんだし」 彼は「分かりました。ありがとうございます」とわたしの言葉に素直に甘えることにしたみたいだ。わたしもしばらくメニュー表とにらめっこして、注文する料理を決めた。「――すみません。真鯛とパプリカのカルパッチョとムール貝のカクテル、カボチャの冷製ポタージュ、あと和牛のフィレステーキとトマトリゾットを」「僕も同じものを。あと、ヒラメのムニエルも」「お肉の焼き加減はどう致しましょう?」「わたしはミディアムレアで。野島さんは?」「僕はミディアムでお願いします」「あと、軽い口当たりの赤ワインをグラスで下さい。彼はクルマを運転するので、ノンアルコールの赤ワインを」 給仕係の男性はオーダー全部を伝票に書き留めると、「かしこまりました」と言って厨房へ下がっていった。「――社長、今日も飲まれるんですか? 昨夜のこと、お忘れになったわけじゃありませんよね?」「大丈夫よ、グラスワイン一杯くらいじゃさすがに酔っ払わないから。それに、今日は昨日と違って楽しく飲めるからね。あくまでお食事がメインだし」「……まぁ、それはそうなんですけど……」 彼がそう言った次の瞬間、お店にもう一組男女の客が来店した。わたしたちと変わらないくらいの若い男女のカップルらしい。けれど……。(…………えっ、ウソでしょ!? なんでアイツがよりにもよって同じお店に来るのよ……) 男性の方が誰だか分かり、わたしはハッと息を呑ん
「……あのさ、平本くん。今日も野島さん、社食に来てるんだけど。彼に噛みついたりしないでね? わたしの二日酔いは自業自得であって、彼のせいでは絶対にないから」 わたしはそう言って、野島さんとまたバチバチになるであろう彼を牽制した。そのことまで好きな人を攻撃する材料にされたらたまったものじゃない。「なんでお前、アイツの肩持つんだよ?」「だって事実だもん。っていうか、理由なら分かってるんじゃないの?」「知ってるけどさぁ……」 わたしと平本くんがやり合っている間、萌絵はなぜか口を挟まない。わたしたち二人の関係を、後から知り合った自分は踏み込めない領域のように感じているんだろうか? それとも、わたしたちが彼女をのけ者にしてしまっているんだろうか……。だとしたら申し訳ない。「……あ、萌絵。ごめんね、なんかのけ者みたいにしちゃって」「ううん、あたしのことはいいから。気にしないで」「うん……」 そうは言われても、萌絵が間に入ってくれないととてもじゃないけれど場の空気が持たない。 そして、なぜか平本くんまで黙りこくってしまった。「……あれ? 平本くん、どうしたの?」「うん…………。なんで俺じゃねえのかな、って思ってさ」「え?」「大学ん時も今も、